実体法と訴訟との境界線−形成権と狭義の権利抗弁
要件事実のテキストにこんな記載を見つけてしまったために、ここ2、3日うんうんとうなっておりました。
「売買契約は双務契約であるので、通常は売買契約の成立が立証されれば同時履行の抗弁権が存在していることが基礎付けられる 。ここで「抗弁権を基礎付ける事実さえ主張・立証されていれば、抗弁の主張として必要十分である」(事実抗弁説)に立ってしまうと、売買契約の存在は原告が主張しているので、被告の意思いかんに関わらず、常に同時履行の抗弁権が登場することになってしまう。これは弁論主義の観点から不当である。」
− 法律実務基礎講座(講義編)民事 p41より
ん?弁論主義から不当??
だって、弁論主義って裁判所と当事者の役割分担の話よね?原告の主張がある以上、被告の主張なしに同時履行の抗弁権の発生を認めても弁論主義の第1テーゼには反しないはずじゃないの?
しばらく考えて、とりあえずたどりついた結論めいたものを書いてみることにする。
考えながら、実体法上の効果発生要件としての意思表示の問題と訴訟上の効果発生要件(と言っていいの?)としての意思表示の問題をごちゃまぜにしていたことに気づく。前者は形成権の話、後者は狭義の権利抗弁の話。後者が今回のテーマ、同時履行の抗弁権。この同時履行の抗弁権と弁論主義って関係あるの?
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そもそも弁論主義って何かっていうと、当事者に事実(と証拠)の主張・提出責任を負わせるもの。そのため、裁判所は、当事者が主張しない事実を判決の基礎として採用してはならず、当事者が主張しない事実は訴訟上は存在しないものとして扱われることになる。つまり、弁論主義は事実主張(と証拠提出)の段階のルール。
ところが、同時履行の抗弁権の効果が訴訟上認められるために必要とされる被告の権利行使の意思表示については、その意思表示をした旨の事実の摘示は不要。その認否も不要。だから、そもそも立証の対象となる事実を選別するルールである弁論主義とは全く関係ないわけなんだよね。
そして、この同時履行の抗弁権のような訴訟上の権利行使の意思表示を必要とするものが狭義の権利抗弁。狭義というからには狭義じゃない権利抗弁もあり、訴訟外で権利行使の意思表示をした旨弁論で主張すればいいもの、例えば、消滅時効の援用の意思表示なども権利抗弁*1と呼ばれることがある。でも、その意思表示は実体法上の効果発生のための意思表示であって、訴訟上の効果発生のための訴訟上の意思表示とは違うもの。これは形成権であってその実質は事実抗弁にすぎないわけで。
ややこしなー。
狭義の権利抗弁は訴訟上の意思表示の問題なのに対して、狭義じゃない権利抗弁は実体法上の意思表示の問題で、だから実質は事実抗弁とな。
…んで、最初のテキストに戻ると。
「弁論主義」という言葉を使うのは分かる。結局、一方当事者である被告の意思を尊重したいってところは共通だから。でもやっぱり弁論主義から狭義の権利抗弁となる理由を説明するっていうのは、次元がごちゃごちゃになっていると思うのだけど?
むー。どこかおかしいかなー。
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- 実体法の世界と訴訟の世界は、全く別個独立のもの。
- そこで、これをつなぐものが必要。そのルールが弁論主義である、と。
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この話を以前にtwitterでお話させて頂きました。その時にぬーぶさん(@noob_mmcz)からこのようなコメントを頂きました。
同時履行の抗弁権が実体法上権利抗弁になっている根拠としては、533条が「できる」としていて、援用者の意思表示にかからしめていること以外に何があるんだろう。
— ぬーぶ (@noob_mmcz) November 14, 2013
533条の「できる」という文言を根拠に同時履行の抗弁権が実体法上権利抗弁となっている、というのは、実体法上形成権となっている、ということなのかな、と思ったりするのですが、どうなのでしょうか…。
悩ましい。
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ちなみに、このブログのために書いたメモがこちら。
それにしてもばっちい字だなー。こういうのキレイに書けるアプリか何かないだろうか…。
2013/11/29 23:05追記
iPadアプリ「Lekh Diagram」で書いてみた。
四苦八苦感が伺えるところはご愛嬌。