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補助参加の利益は「訴訟物」の地位まで登れるか?

民訴で一番悩ましいタームを一つ挙げろって言われたら、迷わず「補助参加の利益」ってさけぶ。

民事訴訟法42条
訴訟の結果について利害関係を有する第三者は、当事者の一方を補助するため、その訴訟に参加することができる。

補助参加の利益とは、この「訴訟の結果」についての「利害関係」のこと。
補助参加って民訴の後ろーの方に出てくるんだけど、なにげに当事者適格のとこでもでてくるよね。任意的訴訟担当のとこ。明文なき任意的訴訟担当の要件のとこ。


明文なき任意的訴訟担当が認められるための要件って、①必要性と②弁護士代理の原則(54条)に反しないことだけど、②の弁護士代理の原則に反しないことって、言い換えたら補助参加の利益が認められる場合なんだよね(担当者のための訴訟担当のとき)。

例えば、買主Yが転売先の相手Xから追奪担保責任(民法561条)を追及する訴えを提起されているとき、売主Aはこの訴訟に補助参加できる。XのYに対する損害賠償請求権の存在が既判力により確定されると、売主Aは買主Yから、やはり民法561条に基づいて損害賠償を請求されるおそれがあるから。これを条文の要件にあてはめて書くと、訴訟物たるXのYに対する損害賠償請求権*1の存在という判断(「訴訟の結果」)は、Aの目的物に対する所有権の不存在が認められたことを前提とする。とすると、売主Aは、Aの所有権の不存在を要件の一つとする追奪担保責任を、買主Yに対して負担するおそれがある。よって、当該訴訟物に対する判断は、売主Aの法的地位に事実上影響を与えるといえる(「利害関係」)*2


じゃー、買主YがXから訴訟提起された時点において、Yは訴訟追行権を売主Aに授与し、代わりに被告となってもらうことはできる?
売主Aにとっては、この訴訟に負けたらYに対してお金払わなきゃいけなくなるかもしれないから、そら一生懸命訴訟がんばるよね*3。Aは弁護士じゃないけど、こういう利害状況にあるなら、プロの弁護士同様に他人間の訴訟でも一生懸命になる。だから②弁護士代理の原則に反しない。

こうしてみると、②の弁護士代理の原則に反しないことっていう要件は許容性にみえて、実は必要性の要件だよね。他人の訴訟に関与させる必要性。とすると、②があれば①も満たすことになる。そうすると①の要件っていらないんじゃないかなー。なんで①と②が要件になってるんだろね。


ちょっと脱線すると、あてはめを考えるときに、なんでこの要件が2つに分かれているんだろうなーって思うことは法律のそこここにあって、いつも悩ましいと思っていたのだけど、今読んでる木村草太先生の「憲法の創造力」の政教分離の章にこんな記載を見つけたので、心が軽くなったのでした。

(津地鎮祭判決と自衛官合祀判決の説明に続いて)…これらの判決では、目的の審査については、どのような公益があるのかが一応示されている。しかし、効果の審査は、「行為の目的が公共的であるため、一般人には宗教の援助や弾圧だという印象を与えない」という趣旨の論証で済まされている。これでは、効果面の審査は、目的の審査から独立した意味が全くない。
 そうすると、最高裁の立てた目的効果基準とは、結局、「目的が公共的であれば、いくらでも宗教を利用してよい」という基準になってしまっていることが分かる。しかし、日本的多神教の性質を踏まえると、こうした基準には深刻な問題があることを指摘せざるをえない。

おお、メカラウロコ。
日本的多神教からは政教分離を厳しく審査しなければならないっていうのは、明治維新以来日本人の大多数が持つ宗教的無関心性につながっていて、丸山眞男の「日本の思想」を思い出した。もう一度読んでみよう。


で、民訴に戻るとだね、「補助参加の利益」って複数人間の紛争を解決するときのマキシマムな基準だと思うのね。まず、補助参加の利益があることを認定して、これを睨みつつ落としどころを考える、これにいろんな要素を足してく、みたいな。

例えば、独立当事者参加の詐害防止参加(47条1項前段)の要件もそう。「訴訟の結果によって権利が害される」っていうのは、通説によれば「補助参加の利益+詐害意思」って考えるでしょ。訴訟の結果によって、自己が不利益被るんなら参加を認めてもいい気がするけど、それじゃ補助参加との区別がつかないので、詐害意思を付け加えるみたいなね。

複数人の間で紛争が起こるなんて、現実にはザラにあるわけで、そういう意味で「補助参加の利益」って「訴訟物」みたいにエラくなる可能性を秘めてるなぁ、なんて思うわけなのです。民訴法は全体を貫く線というのがはっきりとある科目で、その代表的なものが「訴訟物」なんだけども、「補助参加の利益」もその表現を変えながら民訴のあちこちに登場するような、そんな気がする。


言葉を言い換えるっておもしろいね。
そんな楽しいことを許してくれる懐深い民訴がすき。

憲法の創造力 (NHK出版新書 405)

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日本の思想 (岩波新書)

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*1:追脱担保責任の訴訟物って訴状でどうやって書くん?

*2:訴訟物に対する判断が、第三者の法的地位に事実上影響する場合にも補助参加の利益を認めてよいかどうかは実は悩みの種だったりする。主債務の履行請求訴訟に保証人が補助参加できるかどうかも同じ問題。

*3:判決効の主観的拡張と参加的効力っていうのも、かぶるものがあるのかなー。ここはもうちょっと考えてみたい。