LawDesiGn

There is nothing to writing. All you do is to sit down at typewriter, and bleed. - Ernest Hemingway

「世界は暗喩に満ちている」−overtones

ビューティフル・マインド [DVD]

ビューティフル・マインド [DVD]

ビューティフル・マインド - Wikipedia

見ました。
以下、内容に関する記載があります。

印象に残ったものの一つが暗号解読のシーン。
暗号解読とは、一見何のつながりもないように見えるものの中に隠された意味を見つけ出すこと。 一般人からは何故「それ」と「あれ」とがつながるのか分からない。特別に訓練されたコードブレイカーだけがその意味を解読できる。
でも、この過程が実は頭が幻覚や妄想を作り出すプロセスと似ている、と言ったらびっくりされるだろうか。軍事目的の暗号解読も妄想も構造は同じ、といえば幻覚症状が起こるプロセスがイメージしてもらいやすいのかもしれない。


「頭の中の声に内側から食い殺される感じ」
症状が進んで自分自身が幻覚の中に取り込まれてしまった後は、この感覚すらもうないのだと思う。映画の前半部分がそれを表している。どこで現実から幻覚への入り口に足を踏み入れてしまったのか、本人には意識できていない。

完全に統合失調症になってしまう前、またはそこから回復する途中の「現実と幻覚の境界線にいる状態」、それがまさに内側から自分が食い殺されるような感じなのだ。 映画の中でも、主人公が退院後に医師の許可なく断薬してしまい、せっかく改善した幻覚症状が再発してしまう場面がある。彼には若い頃から親友だと思ってきた男性とその姪がいるのだけど、その二人は実は彼の頭がつくりだした幻覚だった。その幻覚が断薬のためにまた目の前に現れてしまう。自分の頭が自分の目に見せる友人とその姪が、彼には現実なのか幻覚なのか分からない。それでも必死で現実に戻ってくる。雨の中、奥さんが乗った車に向かって彼は叫ぶ、
「あの娘は、出会ってから年をとらない。あの娘は幻覚だ!」。

あの状態はまさに自分の頭の中との闘いなんだよね。
つかれるわー

いや、でもね、この「一見何のつながりもないように見えるものの中に隠された意味を見つけ出す」ことって、もっと敷衍すれば「直接表現されたものから別の意味を取り出す」っていう暗喩の一つ。暗喩、それは日本の文化そのもの*1

例えば、日本の伝統文化の中でも「和歌」は、表現された文字上の意味から窺われる言外の意味を楽しむという意味で暗喩の文学そのものだ。この和歌における暗喩を「余情」という。 「余情」とは、本来仏教用語で、人間の知性によっては捉えられない究極の真実を意味するものだった*2。それが日本の和歌に取り入れられ歌人によって洗練されていく。そして、12世紀には「幽玄」(移ろいやすさを表す。後に世阿弥により洗練され、能の中核をなす理念となる)の概念と一体として和歌の根本をなす美意識となっていく。この「余情」と「幽玄」を一体とする変化を生み出したのが藤原俊成、彼は藤原定家のお父さん。

「英語で話す「日本の心」−和英辞典では引けないキーワード197」では、「余情」についてこのように説明されている*3

藤原俊成は、「優れた和歌は、言葉や形で過剰に表現しなくても、暗示的意味を喚起する」と説明している。そこで引いている例は、秋の月の和歌で、そこに描写していないのに、読者には鹿の鳴き声が聞こえてくる。

p44より引用

上記の優れた和歌のイメージは多くの人が共感できるように思う。
現実にはないはずの感覚が頭の中だけでつくられる。 例えば、いいなーと思う絵を見たら頭の中で音楽が流れてきた、なんてことは結構あることだよね。 これって不思議な感覚だよね。脳というのは一体どういう構造なんだろうか。同じように不思議な感覚に「共感覚」がある。

共感覚 - Wikipedia

えー 爆笑問題の田中って共感覚の持ち主なんだ!!すげー、ちょーうらやましー。「数字が立体的なイメージになって現れる」っていーなー、世界がどう見えてるんだろう!! 暗喩が世界についての別の記述の仕方を表すものなら、正気と狂気がまさに紙一重というのは言葉そのまんまだよね。

「君がいなければ、君が見る世界はなかった。」

これはハードカバー版の「密やかな花園」(角田光代著)の帯に書いてあった言葉。本の内容以上にこの帯に書かれた言葉に感動したよ、私は。

じゃー、最後に気に入ってる暗喩を一つ、ご紹介して今日はお別れー。

「ジュリエットは太陽だ」という暗喩からは、ジュリエットの存在が(暗喩的に)ロミオを温め、ロミオは生きるためにジュリエットが必要だという結論を引き出すが、それ以上にはならない。
たとえばジュリエットはロミオから一億五千万キロ離れたところにいるとか、ジュリエット放射線を出していて、それがロミオのDNAを傷つけて皮膚がんを発症させる可能性があるという結論にはならない。

「書きたがる脳」p294より引用

果たしてそうかなー。
「原始女性は太陽であった。」
男性は古来原始の頃から、静かに秘密裏に少しづつ女性に駆逐される存在かもしれないのだー
ぷぷぷ。



*1:まー、でも暗喩ってあるモノごとを別の言い方で表現するってことだから、学問の全ては「人間と自然」の暗喩なんだけどね。

*2:これはプラトンのいう「イデア」と類似しているように思える。人間がこの世で目にしているものは天上のイデアの影にすぎない。それとよく似たものを感じる。

*3:現在は増補改訂第3版が出ている様子。2014/03/10現在