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There is nothing to writing. All you do is to sit down at typewriter, and bleed. - Ernest Hemingway

窮鼠猫を噛んじゃうぞ的な、−アメリカの情報独占に対する途上国の戦略

TRIPS協定?
ずいぶんマイナーねー
でも案外おもしろいよ?

TRIPSなんて短答試験でも捨て問にしようと思ってたのだけど、ちょっと講義聞いてみたらなんやら面白い。先進国と途上国のあからさまな対立構造がみえて、世の中の縮図的なね、そんな感じがしてちょっと勉強したいなーと思った、そう思った、……えぇ、思いましたねぇ。あれから早幾年…。


TRIPS協定がいかにアレかは、この記事が参考になります。

TRIPS協定を作ったのは誰だ?

このへんの経緯を書いた新書なんかあったらすごく読みたいんだけど、Amazonでもヒットしません。

でも、こんないい論文見つけた!

TRIPS協定における途上国問題−医療品アクセスの問題に着目して−

これ、すげー!
先進国の医薬品特許に対して、医薬品のアクセスを容易にするため、途上国が当該特許権に対し強制実施権を発動することが認められるか、アメリカの独占権に穴を開けられるのかが、TRIPS協定の文言に照らして具体的に検討されています。えーと、TRIPS31条あたり。パリ条約5条(A)(2)とかもでてきます。おー。
ちなみに、この論文書くきっかけになったという「誰のためのWTOか?」はこれみたい。ラルフ・ネーダー聞いたことあるよ。

誰のためのWTOか?

誰のためのWTOか?

  • 作者: ロリー・M.ワラチ,ミッシェルスフォーザ,パブリックシティズン,ラルフネーダー,Lori Wallach,Ralph Nadar,Michelle Sforza,海外市民活動情報センター
  • 出版社/メーカー: 緑風出版
  • 発売日: 2001/11
  • メディア: 単行本
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途上国とアメリカのちゃんちゃんばらばらは、2010年のこんなニュースにも表れてます。

ブラジル、米への報復案を公表 綿花補助金に対抗

もう4年近く前の出来事で時流からは外れているのだけど、途上国にとって先進国の知的財産権というのは実はかなり強いカードになるんだな、と。米国の押しつけ感満載のTRIPSではあるけれども、うまく使うとこんな報復手段になるんだね。

ブラジルとアメリカの間の綿花栽培問題は、このニュースよりもずっと前から両者の間でくすぶっている問題のようです。このニュースについて書いた面白いブログ記事があったのですが、今はブライベートモードに設定してあるためにご紹介ができません。残念。代わりにこういうのありました。

WTO綿花裁定へのアメリカの対応と次期農業法

長いけど、14頁上5行に経緯が(過去のだけど)書いてあります。まとめるとこんな感じ。

  • アメリカもブラジルも国内で綿花栽培が盛んで各国に輸出している。
  • 綿花を育てる環境としては、アメリカよりブラジルが優れている。そのため綿花栽培に係るコストはブラジルの方がアメリカよりも安い。
  • しかし、アメリカは国内の綿花産業を保護しまくっていて、これに高額の補助金を与えている。
  • そのため、アメリカの綿花の市場価格はブラジルよりずっと安価に抑えることができていて、これによってブラジルの綿花は国際競争力を失ってしまっている。
  • これにブラジルが怒った!

もう何年も前からブラジルはWTOにこの件を提訴していて、「このたび初の通商対抗策として米国の知的財産権効力停止措置がブラジル国内で認められるのか?」っていうのが、このニュースでした。この措置の法的根拠としてはUrgay Round AgreementのDispute Settlement Understanding 22条3項にあるようです。よくわかりません。探し当てるので力つきました。WTO加盟国はこのDSUを守る義務があるらしい。


2013/11/21追記

この知的財産権の停止措置の問題点をネットをさまよって調べてみました。
いろいろさまざまあるようですが、法的な問題点としては、WTOという公的機関が私人の知的財産権侵害を公に認めてしまう、という点がクリティカルなようです。政府同士の争いのために、アメリカ国民が流れ弾をうける…みたいなそんな感じ。
そりゃ、ひどいなー
国同士の戦いなんて、過去も今も、そしてたぶん未来も同じようなもんです。