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立体商標の使用証拠ー3条2項該当性

久しぶりに商標の話。
こちらのブログ「Legal Equivalents?」 を読んだ。 http://timberlakelaw.tumblr.com/post/84918424000/legal-equivalents

バドワイザーで有名なビール会社、Anheuser-Busen(アンハイザー・ブッシュ)による商標出願の話題。 出願商標はバドワイザーのビール缶の形状。
こちら↓。

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なお、この記事によると、2013年に、中央にくびれのある上記デザインにリニューアルされたとのこと。

ブログの中で目を引くのは、このビール缶の形状を商標登録する根拠として、バドワイザーのロゴ付きの缶が使用証拠として提出されたという点。
こちら↓がそのロゴ付き缶。

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なお、Anheuser-Busenが提出した意見書はこちら*1↓(右上のPDFボタンを押すと、読める文書がダウンロードできます)。

USPTO TSDR Case Viewer

本願は、今年5月6日に公報が発行されているため、ほぼ登録となる見込み。なので、本願が識別力を獲得している事実の認定にあたり、このロゴマーク付きの写真が使用証拠として機能したものと思われる。

しかし、この登録商標付きビール缶は、果たして使用による識別力獲得の証拠となり得るのだろうか。

仮に、当該ビール缶の形状を日本で商標登録する場合、出願態様は立体商標となるだろう。立体商標は、それが「商品」又は「商品の包装」の形状そのものを商標とするものであるために、通常の平面商標とは異なる登録要件が課される。

すなわち、ビール缶の形状を立体商標として出願した場合、当該商標が指定商品であるビールの包装の形状である以上、原則として本願に識別力は認められず(商標法3条1項3号)、登録要件を満たさない。例外的に、登録要件を満たすには、

  • ⑴ 使用により識別力を獲得したこと(3条2項)及び、

  • ⑵ 当該形状が商品の機能を確保するために必要不可欠なものではないこと(4条1項18号)

が必要である*2

この登録要件については、米国においても基本的に日本と同様である。
米国では、立体商標のような商品の外観に対する商標はtrade dress*3と呼ばれる。

trade dressの一つに含まれる商品形状についての商標登録は、事実上商品の製造販売自体を特定人に独占させるおそれがある。そこで、商品形状自体の商標登録の際はかかる不当な独占のおそれを排除する必要がある。 そのため、識別力の存在という要件に加えて、当該形状が物品の機能性からくる必然的な形状でない(non-functionality)という要件も課される。前者が上記⑴に、後者が上記⑵に該当する要件といえる*4

Anheuser-Busenは、上記⑴の使用による識別力獲得の証拠として、同社の登録商標付きビール缶を証拠として提出したものである*5

仮に日本で、この登録商標付きビール缶を使用証拠として提出しても、それはビール缶の立体形状自体が識別力を獲得した証拠としては機能しないはず。 このように、立体商標について使用証拠の証明力が問題になったものとして思い出されるのは「ひよ子」事件判決である。

被告であるひよ子側が提出した使用証拠は、ひよ子の立体形状自体が識別力を獲得した証拠とは認められなかった。その理由の一つは、ひよ子の形が常に「ひよ子」という文字商標とともに宣伝広告されていたから(第5 当裁判所の判断2(4)ア、(5)イ、サ等)。
「ひよ子」事件の経緯は次の通り。

  1. 出願商標は、東京土産としても有名なお菓子「ひよ子」の形状についての立体商標
  2. 当該立体商標は、3条2項該当性が認められ、登録に至った。
  3. 当該登録に対し、競合他社が無効審判を起こした。
  4. しかし、当該無効審判でも、3条2項の適用が認められ、無効不成立審決がなされた。
  5. そのため、これに対して上記競合他社が審決取消訴訟を提起した、という経緯。

結論は請求認容判決。つまり、無効不成立審決は取り消すとの判決である。
その主な理由の一つが、立体商標「ひよ子」の使用証拠のすべてに「ひよ子」の文字商標が付されており、「ひよ子」の形状それのみとして使用しているものがなかった点。 そのため、年間売上高110億円、日産50万個、宣伝広告費年間7億円〜8億円という識別力獲得を立証するに足りる強い証拠も、立体形状自体についての使用証拠とは認められなかった。

証明すべきは、商品形状自体がその形状により出所表示機能を有していることである。よって、商品形状に別の登録済商標を付して出願商標を使用している場合、その事実を立証しても、商品形状が識別力を獲得した証拠にはなり得ないはず。なぜなら、商品形状に別の登録済商標を付して使用しているのであれば、必ずしもその使用によって当該商品形状自体が出所表示機能を獲得したとはいえないから。

バドワイザー缶の場合も、消費者が当該ビールを購入する際に目印にしていたものは、ビール缶の形状ではなく、そのビール缶に付されていたバドワイザーマークであると考える方がむしろ自然。

上記ブログも、この点の疑問を指摘しているものと思われるため、識別力獲得を証明する使用証拠の要件をとりまく事情は、日本と似たものがあるようだ。

Oppositionなり、無効審判なり請求されないのかしら。ちょっと行方が気になるところ。

参考資料

*1:それにしても6頁目が4頁の前にきているあたり、アメリカっぽい。

*2:立体商標において特に問題となるもの。その他4条各号に該当しないこと等、商標一般の登録要件を具備すべきなのは勿論である。

*3:trade dressとは、商品やサービスの外観に対するブランドイメージに与えられる保護である。 例えば、米国では店舗の内装や雰囲気も要件を満たせばtrade dressとして商標登録が可能である。

*4:なお、3条2項による識別力を獲得してもなお、商品の機能を確保するために必要不可欠な形状といえるもの、つまり4条1項18号に該当する商品形状とは具体的に何が想定されるのか、というのは、目下悩み中のところ。

*5:なお、本願の指定商品は「ビール」であり「缶」ではない。よって、本願は商品の形状ではなく、商品の包装の形状についての出願である。日本法における立体商標は、商品の形状と商品の包装の形状とで登録要件を区別していない(3条1項3号、4条1項18号参照)。これに対して、米国では前者をproduct configuration、後者をproduct packagingとして区別し、商品の製造販売の不当な独占を防止する観点から、前者の登録要件を後者より厳しくしている。