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There is nothing to writing. All you do is to sit down at typewriter, and bleed. - Ernest Hemingway

消極要件とする意味ー「否定」の範囲

昨日のエントリに引き続き、「要件事実・事実認定入門」を読んでいる。
185頁の以下の記載を読んで、改めて積極要件・消極要件の違いを考えてみた。

他人物売買における担保責任は、取引の安全のために売主に無過失責任という重い責任を負わせているのですから、売主が売った権利を買主に移転できなかった以上は、原則として売主に損害賠償責任があるが、買主が他人物であることを知っていた、すなわち悪意の場合は、例外として損害賠償責任を負わないというように考えると、民法561条のように、悪意を消極要件の形で考えることになり、この場合は悪意が立証されない限り、すなわち善意か悪意か分からない場合は、売主は、損害賠償責任を負うことになります。

逆に、民法563条3項のように、買主の善意を積極要件の形で定めれば、善意が立証されない限り、すなわち善意か悪意か分からないときには、売主は損害賠償責任を負わないことになります。

ていうか、こうやって引用してみると一文が長いね。上の段落全部一文だよ?
みんな、こんなんアウトライナーに入れずにどうやって読んでるんだ(汗)。
こんがらがるよー。とにかく「分からないことを少しでも分かるために文章化する。」なので、復習のために、考えた結果をまとめておくことにする。

「買主が悪意の場合は、例外として損害賠償責任を負わない」
それはつまり「買主悪意を消極要件の形で考えること」である*1

これを条件文で表すと「損害賠償責任が発生しない→買主悪意」となる。
その対偶は「買主悪意でない→損害賠償責任が発生する」となる。
これは「買主が善意又は善意か悪意か不明→損害賠償責任が発生する」となる。
ということは、売主の損害賠償責任が発生する範囲を広げて買主保護を図りたかったら、その損害賠償責任発生の要件を「〜でない場合」と否定の形で定めればいいってことだね。

こうやって考えてみると、ある要件を消極要件と捉えることの実質的な意味は、 ①積極的にその要件が存在する場合に加えて、 ②その要件が存在するかしないか不明の場合をも含むことにある。

法律効果が発生しない場合の要件、という消極要件の形で定めれば、 対偶をとった場合「要件の否定→法律効果が発生する」ということになる。

これは、その要件を積極要件と定めた場合よりも、法律効果発生の範囲が広がることを意味する。 なぜなら、あるものの存在の否定とは、①あるものが存在しない場合だけでなく、②あるものが存在するかしないか不明の場合を含むから。
例えば、「花子さんは太郎くんが好きだ」の否定は、①「花子さんは太郎くんが嫌い」だけでなく、②「花子さんは太郎君が好きでも嫌いでもない」を含むのと同じ。
つまり、積極要件ではなく消極要件として定めると、存否不明を含む分だけその要件が包含する範囲が広がるということであり、それを要件とする法律効果発生の範囲が、積極要件として定める場合よりも広がるということである。

とすると、ある要件を消極要件とするか積極要件とするかは、利益衡量により決まるということ。
例えば、即時取得にいう「善意」について。
通常、「善意」とはある事実の存在を知らないことを意味する。
しかし、原権利者の帰責性が大きくない場合は、その保護を図るために、即時取得の成立要件である「善意」の範囲をより狭めて考える必要がある。
つまり、通常の意味での「知らない」のままだと、①ある事実の存在を100%疑う余地もなく知らない人(=事実の存在を信じていた人)に加えて、②ある事実が存在するかしないか分からない人も含んでしまう。
これでは、即時取得の成立範囲が広がってしまい、その分だけ原権利者が保護される範囲が狭くなる。
そのため、「善意」を①に限る、つまり「積極善意」のみに限定して解釈する。
すなわち、これは②を「悪意」に含めるという意味で「悪意」を拡大して解釈することでもある。

と考えてみると、「問題研究 要件事実ー言い分方式による説例15題」第14問の即時取得のとこにある図は、分かりづらいよね(新しい版は変わってるのかもしれないけど)。

ここには、「一般の善意」=「無権利者であることを知らなかった」、「一般の悪意」=「無権利者であることを知っていた」とあって、善意の否定は悪意、悪意の否定は善意のように書いてある。
でも、善意の否定は、悪意じゃなくて「善意でないこと」だし、悪意の否定は、善意じゃなくて「悪意でないこと」だから、この書き方は、どちらでもない場合を含めず二者択一的に書いてある点で実体法の世界の図だよね。
要件事実の解説本なんだから、実体法との違いを明確に書いてくれたら、もっと分かりやすいのになー、と思った次第。

ここらへんは、「論理トレーニング」の否定の解説のとこが分かりやすい。

新版 論理トレーニング (哲学教科書シリーズ)

新版 論理トレーニング (哲学教科書シリーズ)

はー、それにしてもこれをうまく図にしたいんだけどなー。
慣れれば、直感的に分かるようになるのかなー。
むー。

*1:wikiによれば、消極要件とは法律効果の発生を障害する要件のこと。はじめ「消極要件」の言葉を見て、要件を「〜でない場合」と否定の形で定めたものをいうのかと思ったけど違ってた。でも、これを対偶に置き換えると、消極要件は、その要件の存在を否定すると当該法律効果の発生要件となるともいえるよね。とすると、法律効果発生の観点からすれば、要件を「〜でない場合」と否定の形で定めているのが消極要件、といえないことはないのかもしれない。