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There is nothing to writing. All you do is to sit down at typewriter, and bleed. - Ernest Hemingway

「原因→結果」の因果関係を必要条件と十分条件で表せるか?

以前のエントリで、「原因と結果の事実的な結びつきを判断する条件関係『あれなくば、これなし』が、どこから来た公式だろう」という疑問を書いた。

その後、この条件関係と必要条件・十分条件との関係を考察したブログ記事を見つけた。

① 法学者と文学徒との対話 - 横井克俊のブログ
② 「ならば」と因果関係の関係・再考 - 横井克俊のブログ


①にある次の記載↓

文学徒:ちょっと待ってください。先生の採用される条件公式は、「実行行為Aがなければ結果Bはないといえる。よって、AならばBである。」という推論ですよね? これは論理的におかしいですよ。「notA⇒notB」から、その対偶である「B⇒A」を導くことは正しいですが、先生は、逆である「A⇒B」を導いてしまっています。「逆は必ずしも真ならず」ですよ。

この文学徒と同じ誤解を、私もずっとしていたことが判明。
通常、原因と結果の関係は「原因→結果」として→で結んでしまうため、「原因ならば結果」という条件文に置き換えていた。そのために、原因・結果の関係と必要条件・十分条件との関係を混乱していたのだった。

厳密にいうと、形式論理の世界には「時間」の観念がないため、因果関係という時間の流れを形式論理で表現するは不可能であるらしい。 しかし、それを踏まえた上で、自然言語の世界にあわせた形で形式論理を借用すると、原因と結果の関係は、結果が原因の十分条件、原因が結果の必要条件となる。つまり、必要条件・十分条件との関係でいえば、「原因→結果」ではなく、「結果→原因」と表すべきなのだった。

とはいえ、この手のミスはありがちなようで、米国ロースクール入学の際に必要なLSATの試験でも、似たような問題があるようだ。
例えば、こちらのサイトにのっている

「Strong DNA evidence was all the jury needed to convict Mr. Harris of murder. 」から正しく推論される文は何か

という問題。
対偶をとるために、まずこの文を必要条件と十分条件に分けなければならない。

needにつられてDNAが殺人罪成立に必要だ、と考え「殺人罪成立→DNA証拠がある」としがちだが、これは間違い。これだとDNAがなければ殺人罪は成立しないことになり、DNA以外による殺人の立証を認めないことになる。 正しくは、「DNA証拠があるならば→殺人罪成立」であり、DNAが殺人罪成立の十分条件となる。

あえて、ある文の必要条件・十分条件を考えようとするのは、その文の対偶を考える上で必要なものだから。そして、対偶を考えることがその文に対する反論を組み立てる第一歩。 たぶんこの手の思考は、反論を考える際に無意識にやっているのだろうけれど、言語化してみることでトレーニングしやすくなるのは確か。

RT @uwaaaa: 「間接事実として使えるかどうかは対偶を取れば分かりやすい」と教わりましたね。「痴漢ビデオをたくさん持っていれば痴漢をした犯人である」の対偶を取ると「痴漢をした犯人でなければ痴漢ビデオをたくさん持っていない」になって,必ずしもそうは言えないだろうという構造が分かりやすくなる。
posted at 17:48:07

これは、以前お気に入りに追加したツイートだけれど、やはり形式論理と法的推論というのは、法律家の間でも無意識の領域になっていることが分かる。

法と人工知能の分野がもっと進展したら面白いだろうなぁ☺